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Betta
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カーターの海が戦火に染まる前、人魚の民と海賊諸王国は危うい平和を保っていた。船々は海面を航行し、深海は海に生れた者たちにとって聖なる領域だった。
ベッタは深淵の宮廷の娘——気丈で美しく、波の上の世界へ憧れを抱く少女だった。
その好奇心が、彼女を彼へと導いた。
激しい嵐の最中、彼女は岩礁に激突して壊滅した海賊船の船長を救い出した。彼女は彼を海中に運び、傷が癒えるまで光るサンゴの洞窟に隠してやった。
その男こそ、フリゲートだった。
彼は島々や星空の物語を彼女に語り聞かせた。彼女は海の底にある静寂の都を彼に見せた。
二つの世界の狭間で、二人は互いに恋に落ちた。
しかし、海と陸との愛が生き延びられるはずなどなかった。
やがてフリゲートは再び海面へと戻っていった——必ず戻ると約束して。
彼は確かに戻ってきた。
けれども、もう彼女が愛したあの男ではなかった。
彼の艦隊は、深海に秘められた古代の遺物を奪おうと、深淵の宮廷を襲撃したのだ。その惨劇により、サンゴの都市は粉砕され、数えきれないほどの人魚たちが命を落とした。
ベッタだけは生き延びた。
フリゲートは惨劇のただ中にある甲板の上に立ち尽くしていた。
彼女が涙ながらに見つめる水面を見下ろし、何も言わなかった。
彼女が愛した男は、すっかり別の存在へと変わっていたのだ。
それでもなお、ベッタは彼への想いを消し去ることができない。愛はより暗いものへと歪み、裏切りによって研ぎ澄まされた執念へと変じたのだ。
彼女は海原を渡り歩いて、彼を追い求めている。
ある夜には、必ず彼を殺してやると誓うこともある。
またある夜には、かつて星の下で彼女を抱きしめてくれた男の夢を見る。
そして、カーターを呑み込んだあの嵐が彼女を異界へと引きずり込んだときにも、彼女の胸の中には一つの思いが残っていた。
もしフリゲートがまだ生きていたら……
彼女は必ず彼を見つけるだろう。
その結末が愛であれ……
血であれ。